ラピュタ坂ヒルクライム初挑戦

和田峠から藤野駅にいたる途中、山深い坂を上ったところに、最後の秘境があった。誰が名付けたか知らない「ラピュタ坂」。ロードバイクをはじめて5年、奥多摩に通うヒルクライマーなら、その名を聞いただけで震え上がるという幻の絶壁に初めて挑んでみた。

ラピュタ坂へのアプローチ

決して山奥過ぎて辿りつけないということはないのだが、和田峠の裏にひっそりたたずむ行き止まりの上り坂。あえて脇道にそれて寄らなければわからないような集落の先にその峠はあった。

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藤野駅側から和田峠を目指して522号線を北上すると、傾斜がきつくなる手前くらいに八幡神社に向かう分岐路がある。この入り口は現在通行止めなので、さらに数100メートル進んで、やさか茶屋がある交差点を左に折れる。突き当りを左に曲がり、道沿いに進んで橋を渡ったら右折。じわじわ勾配がきつくなってくるが、ここはまだラピュタ坂本番ではない(Stravaを見ると誰かが「竜の巣」とかいう区間を設定していた)。少し道が開けて、ヘアピンカーブで目を疑う斜度の道が見えたら、そこが魔界の入り口だ。

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今日はすでに雛鶴峠を往復してすでに100kmは走ってきたところなので、ウォーミングアップは十分。しばし呼吸を整え、「ビンディングペダルで上るのは危険じゃないだろうか。靴を抜いてはだしでペダルを踏んだ方がよいかもしれない」なんて考えていると、急坂を佐川急便のトラックが下りてきた。こんなところも車で上がれるのだな、まあ考えていても仕方ない、ということで、助走をつけて上り始めた。(まれに車が通るようなので、対向車には注意だ)

「竹の子の里」前で無念のリタイア

最初の右コーナーまでは無我夢中で覚えていない。次のT字路はどちらか一瞬迷ったが、左が本道のようだ。のっけから惜しみなく立ち漕ぎで、思い切り前傾姿勢を取りながら、がしがしペダルを踏んで引く。次の左コーナーは曲がれた。記憶にある限り、経験したことのない斜度だ。瞬間的には風張林道の、きのこセンター前の最高勾配地点くらいに感じるが、チラッと顔を起こすと、この傾斜のまま見渡す限り先まで続いている。しかも路面はがたがた、ところどころ砂利も浮いていて道幅は広くない。少しでもハンドリングを誤って、段差や砂利で後輪を滑られたら即アウトな緊張感を覚える。しかも傾斜がきつすぎて、時々前輪がふわっと浮くような瞬間がある。思いきりペダルを踏んで、逆の力でハンドルを引くと、その勢いで後ろに転がってしまいそうになる。

何がなんだかわからず、とにかく路面だけに注意して100mくらい進むと、「こんな道でも上れるのか、ロードバイクってすごいな」なんて妙に感動して顔がほころんできた。ダンシングで踏み足も引き足も全開。重心を下げるため下ハンドルを持った方がよいかと思ったが、ここまで来るとハンドルを持ち替えたり、シッティングに切り替える余裕はない。ふと視界に看板のようなものがちらっと見えたので振り返ると、「竹の子の里活性化センター」の文字があった。

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「事前調査ではここが中間地点で一番きつい部分だ。なんとかここまで来られた」と気が緩んだのか、よそ見してバランスが崩れたのか、次の瞬間、前輪が完全に浮いてウィリーした。減速して横に倒れるなら、すり傷程度で収まると思うが、このまま後ろに回転して、傾斜の分だけ荷重が乗ったバックドロップを食らうと、背中や後頭部が無事では済まない。さらにその後、上から車体も降ってくる、なんてことを想像する暇もなく、とっさの反射で体をねじって斜面と水平に車体を振って、左側に前輪を着地させた。

そのまま惰性で横に進み、もうハンドルを右に切って態勢を立て直すのは無理と悟った。ガードレール前30cmまで来たところで、ためらわず左のクリートを外して、サドルから腰を下ろして無事着地した。ここから再び自転車に乗ってクリートをはめるのは、上りでは初速が稼げず、道を横切るか下ってUターンするにもスペースが足りないと思われたので、大人しく自転車を押してゴール付近の茶畑までは行ってみた。下りもブレーキが効かなそうで恐ろしかったので、ほとんど下りてバイクを引きずった。

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これまでくだんの林道や子の権現、三国峠、あざみラインなど、関東圏の激坂と呼ばれる坂に挑んできたが、本気のトライアルで足を着いたことは一度もなかった。20%くらいの勾配なら、勢いでペダルを回せば、たとえ速度が5km/hとかに落ちても、意外と上れるものだと思っていたが、ラピュタ坂はもはや異次元だった。

ラピュタ坂の傾向と対策

ただ、上りながらいくつか攻略のヒントになりそうな感覚はつかんだので、整理してみる。ここまでの傾斜だと、普通のロードバイクの理想的フォームとかペダリングはもはや関係ない、まったく別種の技術が必要だと思われる。

踏み足も引き足も精一杯使う

最近はパワーメーターの分析から「引き足不要説」が主流になっているが、激坂では引き足が不可欠だ。最初は転倒が怖いので、普通のスニーカーで来た方がよかったんじゃないかなんて考えたが、おそらく踏む力だけでは登坂に必要な推進力を生みだせない。不退転の覚悟で臨むという意味でも、勇気をもってビンディングシューズを履いた方がよい。

ハンドルは「引く」より「押す」

上りながら何度も前輪が浮きそうな恐怖を味わった。自重以上の力でペダルを踏むとは、その分、反作用としてハンドルを引くことになる。ハンドルを引くと、その勢いで後ろにひっくり返りそうな感触があり、怖くてこれ以上強く踏めないと感じる瞬間があった。逆に引き足であればハンドルを押す力が発生するので、全力で立ち漕ぎ垂直運動しながらも、ペダル半回転ごとに足を引いてハンドルを押す方に意識を集中した方がよいと思った。

路面の状態とコースを覚える

登坂中は路面の段差や砂利を避けるのに精いっぱいで、前を向く余裕がない。曲がり角で前方を確認しようと一瞬頭を上げるとバランスを崩して命取りだ。とにかく姿勢は低く、前傾姿勢を保たなければならない。何度か通ってコース展開と路面の段差が激しいところを頭に叩き込んでおけば、ヘッドアップの回数を減らせるはずだ。

体力より集中力が物を言う

比肩するものがない激坂とはいえ、せいぜい800mの距離。フレッシュな脚力を残してあれば、勢いで上れないことはない。むしろ、平衡感覚が狂う異様な光景にメンタルがやられるか、集中が切れてフォームが崩れると即リタイアだ。筋力・持久力だけでなく、視界に何が入ってもわき目も降らずルート確保に専念できる、タフな精神力が必要だ。

ウォーミングアップはいらない

ラピュタ坂を攻めるなら、その日のツーリング行程の早いうちに来た方がよい。理想的には車で和田峠まで上って自転車で下りるか、藤野駅まで輪行して上ってくるだけで準備はOKだ。少しでも体力を残して入口に到達すべきで、ロングライドの終盤に「ちょっと寄ってみよう」なんて考えない方がよい。

重心を低くし、前のめりで漕ぐ

ラピュタ坂を完走するには、下ハンドルを持って立ち漕ぎするスキルが必須かもしれない。自分はまだとっさにブレーキをかけられないのが不安で、激坂では下ハンドルを握れないが、もはやこの速度・態勢では、ブレーキをかける心配はないだろう。ドロップハンドルのなるべく下側をつかんで重心を下げ、かつ前のめりのダンシングで重心を前方に移動するのが、前輪の浮き上がりを抑えるポイントだ。

今回、一番の課題だと感じた「前輪の浮き上がり」現象については、なにか効率的なセッティングやフォームのコツがあるのではないかと思い、ラピュタ坂攻略法を考えてみた。まだ足つきなしで完走できていないので仮説のままだが、しかるべき準備を整えリベンジを誓う。

ラピュタ坂で惜敗を喫して対策を考えた。傾斜が...

それにしても、奥多摩の激坂中盤キルゾーンには、なぜ「きのこセンター」とか「たけのこの里」みたいなメルヘンチックな名前の施設が存在するのだろうか。どちらの坂も行き止まりで、一般観光客が車で来るには、辺鄙すぎる場所だ。

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もし明治がスポンサーなら、「ザバスピット」とか「ヴァームステーション」なんてつくればローディが喜びそうなものを。表の看板はカモフラージュで、なにか別のものを活性化している地下組織のアジトか?

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